とわ子の部屋

Twitter(X)の延長線で始めた独り言

赤いモレスキンの女

読了後の高揚した気分がおさまらない。

映画を見ているような小説だった。かつて何度か訪れたパリの街をぼんやり思い浮かべながら大事に読み進めた一冊。著者アントワーヌ・ローランは大学で映画を専攻し、シナリオを描きながら短編映画を撮…と裏表紙にあったので納得。なんかわかる書きぶり。

訳者あとがきを見ると、英国王室のQueen Camillaのお気に入りの作品の一つに本書が挙げられたらしい。フランスの小説として唯一選ばれたそう。なんかわかる。

 

おとぎ話と言ってしまえばそうなのだけど、推しポイントとしては

・主人公の男性ローランは、本好きで書店経営者。書店運営の様子が垣間見られるのもいい感じ。元々は法学部卒業からの銀行勤務で投資に携わり順風満帆ではあったが、このままではいけないと突然銀行を辞めて書店を営む。大胆に自分の人生を生きる決意をした、それでいて自分の魅力に無頓着な、魅力ある男性。素敵。わかるー。

・もう一人の主人公の女性ロールは、金箔職人。猫飼い。好きな作家がはっきりしている一方で、押さえるべきところは押さえているような本好き(と感じた)。自分なりの美を持って積み重ねている女性って素敵。わかるー。

こんな理想的な二人が最後にはちゃんと出逢ってくれるのだから、本当に小説はありがたい。もちろん二人の力だけでそうなったわけではなく、見えないところでいろんな人(猫も)がバックアップやヘルプをしてくれたお陰。

 

パラレルワールドにも触れられていて、ほんと、そうだなぁと。自分の人生の一つひとつが自身による選択の繰り返しで、もしかしたらそう「しなかった」場合のシナリオもあったはずで、たまに「しなかった」場合のシナリオをぼんやり夢想したりもする。側を掠めただろうが選ばなかった”可能性”。どっちも何も、まぁとりあえず起きていることが全てなのだろう、人生。わかるー。

ロールの主治医先生が退院時最後に投げ掛けた言葉に集約されているようにも思う。

「ロール、素晴らしい仕事をなさってください。そして幸せになってください。少なくともそう努力してください。私たちの人生はほんのささいなことに左右されます。そのことをご自身でよく体験なさったのではないですか。」

 

パラレルワールドでも、選択の繰り返しでも、我々は全てにおいて一つひとつ丁寧に向き合っているとは言い切れないだろうし(決断までにかけた時間はさておき)、まして毎度ガチガチの理由をつけて生きているわけでもない。「なぜそうしたか、わからないとしか言いようがない」もままある。こと人間関係においては。そして実はその無意識こそが、求めていた答えだったりすることも。まぁそれは、いずれにせよ時間が経ってみないとわからないのだけれども。

あー、素敵なおとなの小説だった。きっとパリという舞台もふさわしかったのだろうな。